団子奇譚 9
「左近……先程はすまぬ」
殿は、上目遣いにおずおずと小さく口籠もりながらも謝罪の言葉を俺にくれた。
「いいえ。左近も言葉が過ぎました。おねね様にも申し訳ありません」
そう云う俺におねね様は「気にしないでよ」と軽く受け流す。
「ほら、三成ももっとちゃんと左近に謝りなさい」
「な、何故ですッ!? 俺はちゃんと……」
「コラ、さっきのは声が小さかったよ」
「えっ…でも…」
微笑ましい光景に目を細め、ホッと胸を撫で下ろす俺を小西殿が面白そうに見ている。その横では、大谷殿がチッと舌打ちするのが聞こえた。それも思いっ切りあからさまに…………
「お……大谷殿? 今の舌打ちですが……」
「ん? あぁ、聞こえてしまったか?」
白い覆面の奥でニコリと穏やかな笑みを形作る。
って、アンタ、思いッきし聞こえよがしに舌打ちしたじゃないですかぁ
―――― ッ!!
一瞬、垣間見えた黒いオーラに戦慄を覚えた。再び、胃の辺りが痛み出したような気がするが、極力無視しよう。
―――― というか、したい……
そんな、俺の心中を知ってか知らずか(多分、感知している)、大仰に溜息を吐きつつ
「あのまま、『左近、酷いわ。ねね、泣いちゃう!!』くらい云って大泣きして下されば、もっと面白い事態となったのになぁっと……」
…………はい?
大谷殿は、俺にとってはもんのすごく不穏な言葉をサラリといってのけて下さる。更に
――――
「流石はおねね様。大人な態度であっさりと事態を収拾されましたなぁ。お見事な三成操作術ですが、某としてはもうちょっといじって欲しいところでしたよ」
そして、止めに至極つまらなそうに呟く一言。
「どうせなら、どこぞのバカップルの仲を裂く位に……」
放たれたドス黒いオーラが俺の思考を瞬間凍結させた。
2006/08/01