団子奇譚 8
「左近ッ! おねね様に対してなんだッ!! 言葉が過ぎるぞッ!!」
今にも泣き出さんばかりのおねね様の顔に驚いた殿が、俺を怒鳴る。
殿……それはちょっとヒドイんじゃ……
俺は内心で溜息を吐いた。
事の経緯を思い返せば、愛しの殿からそんな言葉を贈られるのは激しく筋が違う。
だが、敬愛する母親代わりのおねね様を泣き顔(一歩寸前)に追い込んだのは、他ならぬ俺の言の葉。
―― 最も、俺自身もおねね様に昇天一歩手前まで追い込まれましたけどね。
そして、殿もまさかおねね様を泣かす結果となるとは思わなかったのだろう。
すっかり冷静さを失った殿が、必死におねね様を慰めにかかるが、落ち着きを取り戻したおねね様から「じゃ、三成。このお団子食べる?」と、件の団子を差し出される。
しかし、眉を顰めてウッと黙り込んでしまう殿を見て、おねね様が微苦笑を浮かべる。先の泣きそうな顔からの鮮やかな転身だ。
「このお団子……食べられないのなら、左近の云ったことは本当だってことでしょう? なら、左近を怒るのは筋違いだわ」
ニコリと諭すような優しく微笑みながら更に殿に語りかける。
「でも、あたしが泣き出しそうになって吃驚しちゃったんだね。心配してくれてありがとう、三成♪」
「……べ、別にそんなつもりでは…」
微かに頬を桜色に染めた殿は、プイッと横を向いておねね様から顔を逸らしてしまう。
そんな殿をクスクスと笑いながらおねね様は、子供をあやすように頭を撫でる。その行為が恥ずかしいのか、殿は益々頬を赤くして「子供じゃないのですから」と逃げようとする。
その楽しそうなやり取りを少し離れたところで見守りながら、俺は小さく息を吐く。
兎も角、殿に嫌われるかもしれないという最悪の事態は避けられたようだ。
2006/8/16