団子奇譚 7


「左近…。さあ、覚悟はできているよ」

可憐で大きな瞳がジッとこちらを見つめている。
おねね様に真剣な面持ちで見つめられると、思わずこっちの背筋もシャンと伸びる。


     流石は、天下人の奥方だ。


その瞳に宿る力強さは、天下取りのために戦場駆け抜けた男を支え、そしてその支柱となるべき者を守り育ててきた者が持つ特別な強さだ。
ジッと俺を見据える瞳に、俺は素直に感じたままを告白する。

「はっきり申し上げると、頂いた団子はとても食せるものではございませんな。味の甘さが殺人的です。更に申し上げると、あの黄色の餅に何を混ぜられたかは存じませんが、甘さと苦さの比率が異常と申しますか……まぁ、とても人の食べるものとは思えませんね」

一気に感じたことを言い切る。



しばしの沈黙――――


更に沈黙――――


沈黙――――


静まり返ったこの時間がなんだか痛い。そしてなぜか俺の胃もシクシクと痛み出す。



云われた言葉を反芻するようにおねね様の瞳が宙を彷徨う。その瞳がゆっくりと俺、そして俺の後ろに座す殿、小西殿、大谷殿と一巡する。

「……ねぇ、あんたたち……」

思考を停止したような茫洋とした声は、いつもの圧倒的な明るさを欠いている。

「……そんなにあたしのお団子……不味かったの?」

一言一言ゆっくりと噛み締めるように殿たちに言葉を吐き出すと、黒目がちな瞳が段々と潤みを帯びてくる。
余りよろしくない予感がする。シクシクと痛み出した胃は、この悪い予感の前兆だったようだ。
その証拠に背後から突き刺さるような視線を感じる。この視線の主はおそらくは殿だろう……

誰も何も答えられずにいると、それを肯定と受け取ったのか、おねね様の瞳の潤みが増してくる。
大きな瞳から大粒の涙が今にも溢れ出さんとしたその時、弾けたように言葉を発したのは殿だった。





2006/08/16