団子奇譚 6
「左近殿、エラい長い『エチケットタイム』やったなぁ。おねね様の団子っていったいどんなけ破壊力あんのや」
そう脳天気な声が厠から戻った俺を迎えた。声の主は、小西摂津守行長殿。何が楽しいのか顔には満面の笑みが張り付いている。
「こらッ! 破壊力ってなによ、口の悪い子だね、行長はッ!!」
不満げに頬を膨らませたおねね様が、コツンと小西殿の頭を小さく小突く。
ちなみに、現在、殿たち三人は仁王立ちのおねね様の前でチンと正座をさせられている。
顰めっ面の殿。
対照的に喜色満面の小西殿。
顔面を覆った白い覆面のせいで表情を窺い知ることが出来ない大谷刑部少輔吉継殿。
いい年の大人が三人。三者三様の態で小柄なおねね様の前に正座させられている様子は、他から見るとひどく滑稽だ。
「そない怒らんといて下さいよ。実際、さきっちゃん自慢の軍師殿を『ノックアウト』しはったやないですか」
「弥九郎…『さきっちゃん』言うな」
「じゃ、『みったん』♪」
「それも、却下だ」
「えぇ〜、いけずやなぁ」
「どちらでもよいが、そろそろ本題に戻らんか? 味の判者も戻ったことだしな」
終わりそうにない殿と小西殿の会話を冷静に打ち切ったのは、大谷殿。白い覆面の奥から細められた目が覗く。どうやら、笑っておられるようだ。
アンタら、楽しんでるねぇ……
「それもそうだな。左近、頼りにしている」
大谷殿に同意して、殿が俺に声をかけるが、いつもの『頼りにしている』という褒め言葉が棒読みに聞こえるのは気のせいだろうか……。いや、きっと今は機嫌が悪いだけ……だと思う……
「佐吉、そのような色気のない言葉では、島殿のやる気も失せると云うものだぞ」
「せや、ほら見てみぃ。左近殿の士気が、ものゴッツイ勢いで低下しとるで」
「そ……そんなわけないだろうッ! 左近は俺のためならいつでも……」
「あー、そうかそうか。ほれ、島殿、佐吉も期待しておる。さっさとしてくれ」
さっさとしてくれって……最初に殿を煽ったのはアンタじゃないですか……
たぶん、殿の話が惚気話しに移行しそうなのを察知して早々に話を打ち切ったと思われる。
云われんでも、俺もさっさと終わらせたいですよ……
一人、胸中で吐く溜息に気付く者は誰もいない。
2006/06/28