団子奇譚 5
「……さ、左近?」
先程にも増して真剣なおねね様の瞳に促され、差し出された黄色い餅を口に放り込む。が
―――――
その餅を口にした途端、俺の思考は完全に停止した。無言のまま動かない俺を心配げに見上げるおねね様の眼前で、俺の顔色が青から土気色に変わっていく……
「ちょ、ちょっと…左近? ねぇ、大丈夫かい?」
おねね様が声を掛けてくるが、俺は答えることが出来ない。無言でユラリと立ち上がると、足元も覚束かずフラフラッと部屋を出る。
「左近? ど、どうしたのだ? …………ッ!!?」
戸口で状況を見守っていた殿とすれ違う。殿は、恐る恐る部屋を出て行く俺に声をかけるが、今の俺の状態ではそれに答えることが出来ない。
平素、丈夫な身であるため、今まで一度も殿の前ではこんな弱った姿を見せたことがない。死人のように青褪めた俺の顔色を見て、殿が言葉を詰まらせる。驚きに見開かれた色素の薄い目と視線が絡み合う。
俺は何とか、笑みを浮かべて殿を安心させようとするが、迫り上がる何かがそれを阻む。
本来なら殿を安心させて上げたいのだが、そんな悠長なことが許される場合ではない。
殿ッ! 申し訳ありませんッ!! ちょっとどころじゃなく、素でマズイんです!!!
俺は呆然とする殿をその場において、必死で厠へと猛ダッシュ。その後ろから
――――
「ぉ………お……おねね様ッ! いったい、左近に何を食べさせたのですかぁッ!!!」
「三成ッ! あなた、いつからそこにッ!? って、吉継や行長までッ!!?」
「ははは、佐吉に誘われましてなぁ。まさか、島殿のあのような顔を拝めるとは……いやぁ、珍しいモノが見られましたよ」
「ホンマになぁ。おもろいコトになってきはったなぁ。アハハハ♪」
「紀之助ッ! 弥九郎ッ!! 何、楽しそうに笑っているんだッ!!!」
屋敷中に殿の怒声と付属の楽しそうな声が響くのであった。
2006/06/26