団子奇譚 4


『左近、すまぬが頑張れッ!』
『島殿、今こそ、真実を告げるのだッ!』
『佐吉とワイらの為に、あんじょうきばりやー!』

半紙を振り、真剣な面持ちでこちらを見つめる殿たち。
あー、殿……。つまり、この味の感想、自分たちじゃおねね様に直接云えないので、俺に変わりに云えッつーことですか?


     あ、あんたらねェ―――――――― ッ!!


俺は、団子を咥えたままガックリと脱力する。

「さ、左近? あの、やっぱりその……味おかしいかい?」

おねね様は、背後でそんなやり取りがあったことに気付くことなく心配げに俺の顔を覗き込む。いっそのこと、「後ろで殿たちが食べたそうに見ていますよ」とでも云ってやろうかと思ったのだが、その希望はおねね様の一言で実行には移されなかった。

「じゃ、じゃあさ、こっちの黄色いヤツはどうかな?」

そう云って黄色い餅を差し出された。
兎に角、差し出された餅を食うにも、口の中の花見団子を片づけねばならない。
噛むと味が広がるだけなので、手元に用意された茶で一気に流し込もうと茶碗に口を付けるが、俺は盛大にその茶を噴出した。

「えっ!? だ、大丈夫ッ!!?」

驚きつつも背中を擦って介抱してくれるおねね様の背後では――――



『俺のためにガンバレ、左近っ!』という横断幕が揺れていた。しかも、なんだか書き文字が殴り書きって辺りが、急拵えっぽくなんだかもの悲しい………
更に、小西殿の手の半紙は――――



『頑張ったら、佐吉がチューしてくれはるって♪ よっ、色男ッ☆』



という内容に変更されていた。
あ、気が付いた殿が小西殿の手から半紙を奪い取ってビリビリに破いている。真っ赤になって小西殿に食ってかかっている殿を小西殿はからかっている模様。口振りから「そない、真っ赤にならんでもチューくらいええやん。ホントは佐吉も好き好き〜なんでっしゃろ」と云っているらしい。つーか、アンタら寺子屋通いの子供ですか?


     …………なんだか、物凄く楽しそうですね、殿


子供の様にはしゃいでいる(と俺の目に映る)殿たちを尻目に、いったい、自分は何やっているんだろう? 的な現実逃避をしても仕方がない……
図らずも、殿のお願いなのだから、何とか目の前の案件をどうにかするため、この左近、努力致しましょうかねぇ。





2006/06/16