団子奇譚 10


「左近、紀之助、どうした?」
「ん? いやいや、なんでもないよ。佐吉」

白い覆面の奥でニコリと微笑む大谷殿。
先程の何やら真っ黒な雰囲気は一瞬で消え失せ、取って代わって弟を慈しむ兄のような真っ白なオーラが燦然と輝く。
ついで、

「そうですよね。島殿」

と、俺に話を振ってくる。にこやかな声色の裏側で、俺を見たその目には確実に「云ったら殺す」という強烈な視線があった。

「……えぇ、なんでもないですよ。殿」

その強烈な視線に背筋に悪寒が走る。フイッと大谷殿の視線を避けるように目を逸らすが、背筋の悪寒は治まらない。

何なんでしょうか、このお人。確か、普通のモブ武将だよな。何で、俺、圧倒されているんでしょうか?
あー、何か話が続かないうちに「炎牌亜」とかいうモンがでてたよな。アレで、無双乱舞使えるようになったから、このお人もパワーアップしたのか? 殿と連携とかしちゃったりするんだよな、アレ。このお人、殿と仲良しだから、連携乱舞、もんの凄く威力ありそうだな。

うぉッ、違うだろ、俺。
つか、絶対違うぞ、俺。
兎に角、落ち着け、俺。

取り敢えず、部屋の隅っこでスーハーと深呼吸を繰り返し、思考を落ち着けようと努力する。ついでに、軽く腕を振ってラジオ体操。これって、身体が解れて丁度良いとか何とか………

そんな俺の後ろ姿を生暖かい視線が見つめていた。



「さこん? いったいなにをしておる?」

半ば棒読みの殿の呼びかけに、俺は慌てて振り返る。

「えッ!? い、いや別段意味は……。ちょっと気分転換でもっと……」
「それで、ラジオ体操だのヒンズースクワットだの腹筋だのシャドウボクシングだのをかましておったのか?」
「えぇッ!! 俺はラジオ体操だけの……つもり……」

自分が意識していない行動を指摘されて驚く俺。その先に、殿の後ろでニタリと口元を歪める大谷殿の影(って、覆面マンだからホントだが知らんが、絶対にそうだと確認している)


って、原因はアンタですかぁ――――― ッ! って、アンタ、何したの? ねぇ、ホントに何したんですかぁ??? ひょっとして、催眠術師? ねぇ、戦国時代に催眠術?? ちょっと、マジですか? だいたい、アンタ、大名でしょうがッ!? びっくりエンターテイナーじゃないんだから、マジ勘弁してくださいよ(涙)




恐るべき、大谷吉継…………
いったい、俺に何をしでかしてくれたのか確認したいが、怖くて出来ない。というか、聞いても「さてさて」とか云って、無邪気な笑顔で惚けるに違いない。聞くだけ不毛。

シクシクからズキズキに代わった胃の痛みに耐え兼ねて俺は深い溜息ひとつ。
なんとか、この苦行が早く終わることを祈るのみだ……





2006/12/04