団子奇譚 2


「左近、あたしゃ嬉しいよ」

翌日、俺は早速おねね様からできたての手作り団子の包みを手渡された。家臣のそのまた陪臣風情に大殿の奥方がわざわざ手作りの菓子を届けに来るというのは、従来の常識から考えてどうよ? と思ったが、おねね様の気取らない性格を考えるとそれもありかと苦笑を禁じ得ない。
丸い目をニコニコと嬉しそうに細めて手渡されたそれは、いろいろな種類の団子だった。餡がたっぷりとかかった串団子に色鮮やかな白、桜、草の花見団子。こっちの黄色味がかかった団子は黄粉でも混ぜたのか?
見栄えは上々だが、油断は出来ない。俺の脳裏には、昨日の殿の顔が思い出された。

「旨そうですなぁ。ありがたく頂戴致しますよ」
「いいんだよ。ここ最近、三成だけじゃなくてうちの人や清正たちまで『甘いものは苦手で〜』とか云う様になっちゃて〜。作ってもなかなか食べてくれないのよ」
「加藤殿や福島殿も?」

ここで、俺の脳裏に「イヤ〜な予感」という単語が点滅を始めた。

「もう……男の子って、急に甘いものが苦手になるのかしらねぇ。昔は、いっぱい食べてくれたのに……」
「その…まぁ、そうですね。年を取れば味覚も変わるもんですよ」

取り敢えず一般論を述べながら内心では「絶対に何かある」ことを確信した。まぁ、問題の団子は手中にある。原因と対策を講じるには何ら問題はない。後でゆっくりと団子の味を確認すればいい。

「それじゃあ、これはあとで賞味させて……」
「ヤダねぇ。遠慮せずに食べてよ。左近の感想も聞きたいしね」
「………い、今すぐですか?」
「うん、今すぐ」

……早速、俺の軍略に危機が訪れたようだ。



2006/06/07