団子奇譚 16


「左近殿。アンタ、本当に三成の軍師なンやなァ」
「どういう意味ですか?」
「ん? いやァ、俺はてっきりただのスケベ中年大筒親父かと……」

ゴッ!!

鈍い音を立てて、俺は小西殿の口を強制的に閉ざす。

「アイダァ〜〜ッ! アンタ、いま本気で俺の頭、殴らはったなッ!! しかも、拳骨やでッ!!!」
「あんたこそ、さっきから人を中年中年と……。左近の我慢にも限界がありますよ」

低く唸るような声で恫喝すれば、青褪めた小西殿は慌てて大谷殿の後ろに隠れる。と――――

「中年……気にしとったんやァ。俺、まだ2回しか言うとらんのに……」
「そうだね、気にしてたんだね」
「そうかァ。気にしとったんやね。スケベや大筒はOKやけど、中年はNGワードやったんや……」

な、なんでそんな「可哀想な人」を見るような眼差しで俺を見るんだ、アンタらァ――― ッ!!

「いいから、話の続きをしますよッ!」

そんな視線はある意味耐え難い。というか、マジで勘弁してくれ。俺は慌てて、話の続きで「可哀想な人」視線を打ち消す。

「ところで、殿に以前聞いた話では、中国大返しの道中はおねね様とご一緒だったとか……。と、なると姫路城で砂糖大量投入の激甘団子をつくったのは……」
「うん、某と行長♪」
「やっぱり……後方支援組み……というか、実行犯はアンタらですか」

もっといろいろと言い訳をしたりするのかと、若干の期待をしていたが、あっさりと回答。もっとジタバタしてくれるものと思っていただけに肩透かしを食らった気分だ。
しかも――――

「俺らに忍を使って指示したのは、おねね様やけどなァ」
「某たち、おねね様のレシピどおりに作っただけだがなぁ」

と、子供のように口を揃える。

「みんな、疲れて味覚がおかしィなってたんか、結構もくもくと平らげてたで……」
「そのレシピ……見てみて、おかしいとか思わなかったんですか?」
「さぁってな。某も行長も手料理はしないし、作った団子の味見もしなかったのでな」
「味ぐらい見てくださいよ」
「まぁ、マズかったら三成あたりが眉間に皺寄せてきはると思うとったンから、放っておいたンや。そしたら、つくった団子がちゃんと全部なくなったンんでな。じゃ、味も問題ないンやとね、俺らもその時はそう思ってたンよ」
「おねね様も完食された団子の皿を見て、『疲れた時にはやっぱりお砂糖ねッ!』とご満悦だったのでな。それでいいかと」
「つまり、砂糖をたくさん使った団子を食ったから、みんな元気になったと…………」
「そう思い込んでおられたようだなぁ。ある意味、滋養強壮の薬のようなもんだな」
「それで、それ以来……」
「そうなんよ。みんな、疲れた顔するとあン時と同じレシピで激甘団子を作るようにならはったん」
「三成も清正も正則も苦い薬とか嫌いだしねぇ。いくら精が付くって云っても、今だに苦い薬は飲みたがらないんだよな。それで、甘いものならっと思われたんだろうねぇ」

「あいつら子供だから」と言って、大谷殿はクスクスと笑う。

「おねね様に至っては、1つでも多くみんなに食べてもらいたいばかりに、味見すら忘れていたってあたりですかね」
「そうだろうなぁ。なんせ、島殿に指摘される迄、自分の団子の味が変ってしまったことに気付かなかったんだからねぇ」


     つか、中国大返しからいったい何年経っていると思うんだ。


その間に、進言する機会はいくらでもあったろうに。そう思って聞いてみる。

「それで、原因を知っていて何で今まで黙っておられたんですか? ふたりとも……」
「だってさ……」
『面白そうじゃんか』
「…………………………あ、さようで」

もっとも彼ららしい悪魔の答えに対して、俺はそう返すのが精一杯だった。





2007/02/07