団子奇譚 15


「左近殿、ひょっとして分かっちゃった? 紀之兄さん、どないしよ?」

眉を下げて困り顔の小西殿。それに対して、平素と様子の変わらない大谷殿。

「まぁ、取り敢えず島殿の推理でも聞こうかね?」

「いいですよ」と俺は自信ありげに笑い返してやると、大谷殿の目が面白そうに細められる。
さて、ではこの左近の推理、きちんと聞いて頂きましょうかねぇ。



「まず、砂糖の大量購入のコネの件ですが……」

俺はドカリと胡座を掻いて座り込む。左手で顎をさすりながら持論を展開するのはいつもの癖だ。

「市価の半額って辺りが気になりましてねぇ。砂糖は高級品。半額で売れば、間違いなく赤字ですよ。普通なら値引きっていっても赤字のでない程度に抑えるもんです。それが商人ってもんでしょう?」

小西殿に目で問えば、「そうや」と頷き返す。

「でも、ご自分の趣味のために、高級な砂糖を大量に使いたいおねね様にとっては、なるべく安く入手したいと思っておられたはず。そこで、隆佐殿と行長殿とでは、どちらがよりおねね様に近いかといえば、当然行長殿でしょうね。おねね様は、砂糖の購入に関して行長殿に相談されたんじゃないですか?」

目を瞠る小西殿の横で、大谷殿の目が益々細くなる。どうやら、笑っておられるようだ。推論はあながち外れではないらしい。
俺は話を進める。

「隆佐殿も息子の頼みでもあるし、近習の中でも新参者の息子の印象が少しでも良くなると考えれば、多少の赤字なんか苦でもないでしょう。こうして、行長殿の口利きで、市価の半値で砂糖が購入出来るようになった、っと……」
「うぉ、当たりや」

やっぱりね。

「おねね様に、砂糖が元気の出る薬って入れ知恵したのもアンタでしょ?」
「まぁ、『物の本にこう書いてあるケド、どうなん?』って聞かれたんでなァ。『食ったら食っただけ元気なるのと違いますかなァ』って答えたンや」
「なんつう、アバウトな回答ですか。『食ったら食っただけ』って辺りが、中国大返し以降の団子の味の激変に繋がりそうですな……」

そう云って俺は一息吐く。
やれやれ、この調子だと今回の件の原因には無事に辿り着けそうだな。





2007/01/01