団子奇譚 17
「左近殿。それじゃ、この衣装着て、いまの話をおねね様と三成にしたって」
そう言ってニコニコと先程の南蛮衣装の包みを俺に押し付けてくる小西殿。
「って、何で俺がそんなことしなきゃならないんです?」
「島殿。何のために我らが懇切丁寧に名演技で一連のお話をしたかおわかりか?」
「趣味」
それ以外に考えられない。だって、すんごく楽しそうだったし……
「違
――うッ! 今回の件、某たちが絡んでいることを誤魔化しつつおねね様と三成に説明しろと云っているんです!!」
「んなこと、わかるか
―――― ッ!! アンタ、そんなこと一言も説明してないわ
―――― ッ!!!」
「まぁったく。『俺の軍略、今日も冴えているぜ』などとエラソウな口、叩いているのだから、ズバッと某たちの思惑くらい当てなさいよ」
「どっちかつーと、今のアンタの方が随分とエラソウですが……」
やれやれと云わんばかりに「フッ」と鼻を鳴らす大谷殿。同じ動作を殿がやると、非常に可愛らしく見えるのだが、大谷殿がやると………
許されるなら、今すぐ殴りてェ
―――― ッ
同じ動作でも、やる人間とやられる人間との関係によっては可愛く見えたり殴り倒したくなるものなんだと、今改めて思い知った。きっと、加藤殿や福島殿から見た殿は、俺から見た大谷殿と同じようなものなんだろう。
「どっちにしてもお断りですよ。アンタらにそんな義理はありません。今回の件、一枚も二枚も絡んでいるんですから、自分らで何とかして下さい。つか、俺より大谷殿の方が口が達者じゃないですか、自分で上手く言い包めて下さいよ」
そうだそうだ。な
――――んの義理もないじゃないですか。なんで、俺がアンタらの尻拭いをせにゃならんのです。
つか、絶対に俺が困るところを見たいから、こんな無理難題を吹っかけてきているに決まっている。
俺はアンタらのお遊びに付き合っている程暇じゃないんですよッ!
「左近殿。俺らのお願い聞いてくれへんの?」
雨に濡れて路頭に迷う子犬のような眼差しで小西殿が「お願い」光線を放つ。
ハハハッ、馬鹿めッ!!(by 独眼竜)
殿じゃあるまいしそんな手が通じるかッ! この島左近が、殿以外の男の「お願い」なんざ聞く訳ないでしょうがッ!! 最近じゃ、女のお願いだって(殿が拗ねるから)殆ど聞かないのに……。
アンタらは、とっとと豪雨に打たれて路頭に迷い死ねッ!!!
「当たり前です。なんだって……って、それはッ!?」
だが、敵も然る者だった……
「長浜時代と正澄さん(石田・兄)から貰ったアルバム一式」
大谷殿がおもむろに懐から取り出したのは、ス○ーピーやミッ○ーマ○スの絵柄入りの可愛らしいアルバム数冊。
「佐吉、13歳。可愛いよねぇ」
「こっちは7つやってェ。いややわぁ、桜色の着物がよう似合ってはるわァ」
「これは、15歳のだな。初めて長浜の城に来た時のだ。初々しいねぇ」
こ、このぉ悪魔どもめぇ
――――― ッ!!!
なんですかッ!? そのレアアイテムッ!! ツボ突きすぎッ!!!
「路頭に迷い死ね」と心中で呪った途端、俺の方が迷い死ねそうだ……。
「兄さん。どこぞのエロおやじがものごっつい目で睨んでくるでぇ」
「欲しいでしょ? 欲しくないなどと嘘を云うのはお止めなさい。身体に毒です。佐吉よりかなり年齢上なんだから、せいぜい長生きしてもらわないと、某たちも困る。だから、我慢せずにおとなしく某たちの云うこと聞いてりゃいいんです」
「俺に殿を裏切れと?」
「裏切るんじゃないです。取引です。島殿さえ、下手のプライド捨てて大人しく某たちの下僕なれば万事が全て丸く収まるんです」
「げ、下僕ッ!? 冗談じゃないですよッ!!」
「いらんの? 佐吉、めっちゃ可愛いでぇ。ほんま、天使みたいやァ」
「の、乗りませんよ、そんな話ッ!!」
正直云おう。メッチャ欲しい。どれくらい欲しいかというと、殿が俺に二万石を差し出した時と同じくらいに欲しい。
しかし、この話しに乗ったら最後、俺の未来は坂を転がるように悲惨な下僕街道まっしぐら♪ わかり易すぎるくらいわかり易い未来予想図に背筋がゾッとする。
ここは、我慢だ。頑張れ、俺ッ!
2007/02/07