星合の契り


「ここか……」

城内の寂れた一郭。そこに男はいた。
すっかり辺りが闇が覆い隠し、月でさえ重く垂れ込めた雲向こうに姿を隠してしまった。
その真っ暗な闇の中、揺れる松明の炎で辺りの様子を窺う。頼りない炎に照らされて周囲の景色が朧気に浮かび上がった。
長い年月、近寄る者もいないのか、雑草が生い茂り土の白壁も所々が崩れている。
土塀の瓦が割れ落ちた様など、とても支配者が住まう城の一部とは思えない程に荒れ果てていた。
その打ち捨てられたうら寂しい場所には、寂れた社がひとつ。朱の禿げた鳥居に両脇に座すのは稲荷だろうか。風雨に晒されすっかり石像の表面は摩耗していた。
その物の怪でも出てきそうなうらぶれた雰囲気に臆することもなく、男は社の扉を静かに開けた。

木の軋む音が低く響く。
埃が舞った。

社の中は一応の体裁は整えてあるものの、積もった埃と黴で空気はひどく澱んでいる。
手に持つ松明の炎に炙られて舞い上がった埃がジジッと小さな音を立てて消えていった。

「さて……、この辺りにあるはずなんだが……」

男はそう云いながら、遠慮なしに社の中へと歩を進める。
手に持った松明で丹念に床を照らすと、若干、埃の掃けた痕跡を見つける。誰かが床の埃を払った跡のようだ。

「あぁ、あった」

男は小さく微笑む。
分厚い掌が床板をまさぐると、床に穿たれた小さな洞があった。そこに手近に転がっていた棒を突き刺してみる。先端に何かが当たる感触が手に伝わると、男は更に力を込めて棒を洞に押し込む。
「カチリ」と乾いた音が小さく響く。と、ギギギという重い音を立てて床の一部が迫り上がる。地下へと続く隠し階段が現れた。
男は満足げな笑みを浮かべると、その地獄への入り口のような地下への階段をゆっくりと降りていった。