熱帯夜


「暑いな……」
「そうですな」

真夏の夜の熱気が、室内に立ち込める。夜風の吹かぬ湿気を孕んだ空気は、肌にまとわりつき暑さを倍増させる。
夜風を入れるために開け放たれた障子からは、青白い月明かりのみが夜具を敷いた室内に入り込む。だが、月明かりの冷たさでは、涼気を受けることは叶わない。

「暑い……」
「……そうですな」

先ほどから繰り返される不毛な会話。
なんの解決にもならない繰り返しに流石の左近もいい加減うんざりとする。

「あつ……」
「殿」
「なんだ。俺は暑いのだ」
「それは、十分解りました」
「なら、なんだ」

左近の声に非難の色を感じ取ったのか、三成は左近に輪をかけて不愉快そうに上目遣いに左近を睨む。


     そんなに暑いならもっとも手っ取り早い解決方法があるんですがね


だが、そう云おうとして左近は口を噤む。

「…………」
「どうした?」

忠臣の腕を枕にして伺うように見上げてくる主君の不審そうな顔をジッと見詰める。


     もし、本当に嫌ならとっくの昔にそうされているな


なら、主が嫌がることをわざわざ自分が言うなど愚か以外の何者でもない。左近は口にしようとした言葉を打ち消した。
その代わり―――――

「いえ、暑いですねぇ」

そう云って左近は苦笑を返した。





fin
2006/08/20


「どんなに暑くても一緒に寝てます」というバカップルな話。)