ある者は斯く語りにけり


◇ 当SSの注意書き ◇

  • 兼続が変態です(兼→三気味)
  • 幸村は腹黒です(けっして可愛らしい子犬のような人物像ではありません)
  • オリジナルキャラがある程度の権力を有しています
  • 一応、左三ですが、若干殿と左近の出番は少なめです

それでも、OKよん というお嬢様方は↓へどうぞ!










大阪城下―――――

「突然にすまぬ。三成はいるか?」

大阪の石田三成の屋敷を訪れたのは、親友の直江兼続と真田幸村。
なんの連絡もない突然の訪問ではあるが、「気兼ねなく立ち寄れ」との三成の言葉に従い、兼続や幸村はこうして偶に石田邸を訪ねることがある。

「これは、直江様。真田様。殿はただいま島様と茶室におられます。ご案内致しますので、こちらへ」

小姓も主の親友たちの突然の訪問に慣れている。慌てることなく、手で庭を指し示し先頭に立って案内をする。

「先触れもせずによいのですか?」

いくら親しくとも「礼儀」がある。元来、気配りを心がける性格の幸村は、いくらよいと云われていても、やはり突然の訪問に気兼ねがあるらしい。
道案内をする小姓が、幸村に振り返り気遣うように答える。

「はい。殿より直江様や真田様がお訪ねになられた時には、直ぐにお通しせよとの命ですから、真田様はお気にならずに……」
「ははは、流石は三成。我らの友情の深さが窺い知れるというものだ。小姓殿の言われる通り、気にする必要はない」
「そうですね」

そんな、幸村の心情を察してか、兼続は明るく笑い声を交え幸村を諭す。その清々しい笑顔につられ、幸村も笑みを返した。





庭の奥。小さな竹林に囲まれた一角に石田邸の茶室は備えられていた。
こんぢまりとした質素な造りの茶室は、三成の己に厳しい性格を伺わせる。兼続や幸村は、この茶室を見る度、華やかな見た目に反して厳格な友人らしいと微笑ましく思う。

小姓を先頭に茶室に近づく三人。
だが、建物近くに寄ったとき、茶室より漏れ聞こえる声が耳に入った。

「……ッ…」
「…ぁ……ぅ…ぃッ」

土壁越しに聞こえるそれは、くぐもりよくは聞こえない。茶室内にいるのはふたり。三成と左近の主従のみ。ならば、漏れ聞こえる声は、互いに政情でも語っているのであろうと―――そう、兼続は考えた。それは、幸村も同じであった。
だが―――――

「……っ……あ」
「殿……随分とここを固くされておりますな」
「っはぁ……い、いた」
「我慢なされい。時期によくなりますから……」

声の主は三成と左近。
茶室まであと数歩と近づいたとき、はっきりと耳朶を通った内容は、予想を大きく裏切った。

思わずその場に足を止める三人。

「…………」
「…………」
「…………」

沈黙が三人を包むが、茶室からは更に「あん」だの「うん」だのという種類の声が聞こえてくる。
思わず顔を見合わせる兼続と幸村。

兼続:ゆ、幸村……こ、これはなにか? あれか? というか、あれっぽそうだな……
幸村:兼続殿。あれではわかりません!
兼続:うぉ、純情ぶるなッ、幸村ァ! あれっていったら、あれだろうがッ!!
幸村:えっ? ひょっとすると、あ、あれですかッ!?
兼続:そうだ、あれだ。幸村ッ! こ、こいうときは、出直すべきだろうか?
幸村:終わるまでお待ちするのでは、ダメなんですか?
兼続:な、何を云っている!? ダ、ダメだろうッ! あれが終わったあとは、後始末が肝要なのだぞ!! 三成はただでさえ、腹を痛めやすいのに!!!
幸村:そうですよねぇ……。左近殿相手だと、なんか濃そうですし……
兼続:濃そうとは、なんだ! 不義だぞ、不義ッ!! というか、終わった直後の頬を紅潮させ俯き加減で恥ずかしがる三成など、可憐で艶過ぎて直視できるかぁッ!!!!
幸村:なんか、「可憐で艶過ぎる」って辺りが、なにやら邪な妄想を感じるのですが……
兼続:そんなことある訳ないだろう! と、とりあえず終わった後ではダメだッ!!
幸村:なら、途中で止めて貰います?
兼続:ッ! それは……それで、三成が辛いだろう……エロ軍師はどうでもよいが……。うぉぉぉぉ、己、島左近! わたしの三成に対してなんて破廉恥なッ!!
幸村:あー、いいから妄想で鼻血吹くの止めて下さい。ちなみに、三成殿が兼続殿のモノになったという経緯はありませんから。はい、残念ッ!
兼続:ゆ……ゆきむらぁぁぁぁ――――――ッ!!
幸村:鼻血の上、血涙まで垂れ流さないで下さい。では、やはり出直しますか?
兼続:それしかあるまい……

この間、約1秒―――――

読むだけでも5秒はかかろうかと思われる会話を、口を動かさずに高速念話で済ますふたり(一人は、さらに鼻を懐紙で押さえている)。これも「義」がなせる業であるのは不明である。

いくら、堅苦しい礼儀など不要といわれてもこればかりは、直視するのは御免蒙りたい。
一方は、生暖かな視線を……もう一方は、烈火の嫉妬と妄想を胸中に抱えながら、最終的な結論は一致を見た模様。

ここは、一先ず退散とばかりに口を開きかけた幸村に、案内の小姓が先んじる。

「殿ォー。島様ァー。直江様と真田様がお見えです」
『……ッ!!』


   こ、小姓(殿)――――ッ! この甘々な雰囲気の中、我らに特攻せよとッ!!(吐血)


「よ、よろしいので? 我ら、出直して参ったほ…」
「兼続と幸村か? 入れ」


   って、三成(殿)――――――――ッ!!(血涙)


「直江様。真田様。どうぞ」


   ど、どうぞってどうよ―――――――ッ!!!(悶絶)


もう、どうにもならない。
小姓は、茶室のにじり口を開け、にこやかにふたりを招き寄せる。

茶室は狭い。その空間に漂っているであろう濃密な雰囲気を予想して、兼続と幸村は身を固くする。

「シ、シツレイスル」
「シ、シツレイシマス」
「どうした? 兼続、幸村。固いぞ?」
「ハハハ。イヤ、ナンデモ……って、えッ!?」

ガチガチに身を固め、意を決して小さなにじり口から茶室への入っていったふたりが眼にしたのは――――――

「か、身体を揉み解しておられたんです……か?」
「うむ。最近、机にばかり向かっておるので、肩や腰が凝ってしょうがない」

四畳ほどの狭い空間には、畳に寝転がり家老に腰を揉ませている主の姿があった。

「ホント、どこの爺さんですか……。凝り過ぎですよ。っと!」
「あだだだだ、左近ッ! そこ、ホントに痛いぞッ!!」
「こういうのは多少、荒療治が必要です。イヤなら、ちゃんと運動でもなさい……ッネと!!」
「ッ! あ、そこは……気持ちいい」
「痛いばっかじゃ、可哀想ですからねぇ。まったく、左近は按摩師じゃないんですから、解すなら本職を呼べばいいでしょう」
「見も知らぬ他人に触られるのはイヤだ」

半ば白く燃え尽きそうなふたりの上を主従のほのぼのとした会話が流れていった。





帰り道―――――

ふたりを茶室へと案内した小姓が、再びふたりを門前まで導く。
道中、ふたりの足取りは重い。というか疲れ切っていた。

「はあぁ……」

兼続の口から重い溜息が吐き出される。

「お疲れですか?」
「まぁ……な」

そう訪ねる幸村の顔には、苦笑が滲む。

「とんだ取り越し苦労でしたね」
「……そうだな」

しょんぼりと肩を落とし背を丸め兼続は力なく答えた。
―――――がッ!

「そうだ。そうなのだッ! 冷静に考えれば、有り得ん話だ!! 義と愛の結晶たる三成が、あーんなことやこーんなことなど天地がひっくり返っても有り得ん!!! 何をうろたえておったのだ、わたしはッ!! あの可憐で奥床しい三成が、アハン、ウフンなど有り得ん!!! きっとそうだ! 絶対そうだ!! 寧ろそうだと決めた!!!」
「ここサコミツ中心のテキストサイトなんですから、寧ろあーんなことやこーんなことがメインです。妄想で事実を捻じ曲げようとせず、現実を直視して下さい」

やにわに復活をした兼続。力の源である妄想パワーに冷静に突っ込みを入れるが、効いてはいない。

「あぁ、でもわからんぞッ! 三成の側には、あのエロ軍師が!! 島左近は、変態だからッ! やはり、三成の側にあのエロ軍師を置くのは危険だ!!!」
「自分棚に上げて、他人を変態扱いしないで下さい。あなたが一番変態です。左近殿は、今のところは単にエロいだけです。つか、わたしの話聞いてます? とっくにに危険を通り越してますから、あのふたり」
「な、なんだとッ!!」
「あのですね。最初にあれをアハン、ウフンと勘違いして、ひとりでテンパっていたのは、兼続殿ですから」
「………………」
「理解なさいました?」
「うぅ……幸村、今日は容赦ないな」
「いつでも、容赦していないつもりですが?」

親友に変態認証を貼り付け、盛り上がった妄想パワーを打ち砕くことに成功し、笑顔の幸村。纏う表向きの雰囲気は爽やかそのものなのに、一抹の黒さを感じるのは兼続だけではないかもしれない。
かといって、これくらいのことで挫ける直江兼続ではなかった。

「……小姓殿。ひとつ聞くが…」
「はい、なんでしょう?」
「ああいったことは、しょっちゅうなのか?」
「ああいった? あぁ、島様が殿のお身体を解されることですか? えぇ、殿がよく所望されておりますよ」
「しょ……しょっちゅうなのか……」
「特にここ最近、お疲れのようで……」

と、あのあと、兼続は三成が嬉しそうに親友の小西行長から貰ったという異国の按摩の教本を見せられたことを思い出す。


   「こっちが『鯛式真差亜字』というらしい。それで、こっちが『路美路美』。それで…………」
   「だから、左近は按摩師じゃ……」
   「なんだとッ! 主の身体を気遣うのが家臣の務めだろうが!! なぁ、兼続?」


「フフフ、そうか……なら、この直江兼続が三成のため、世界中の按摩技術を取得し、その激務で疲れた身体を癒そうではないかッ!」
「そんな暇ないでしょう。上杉の家老の仕事はどうしたんですか、兼続殿? 第一、そんな鼻息の荒さで触れようとすれば、きっと三成殿に張り倒されます」
「そんな必要はありません。殿は島様以外にそんなことお命じになりませんから。直江様じゃ無理です。絶対」

兼続。痛恨のダブルパンチ。四肢を地面に付き、orz のポーズ。「ズーン」という効果音までついてきそうな勢いだ。
その横で、笑顔のハイタッチを交わす幸村と小姓。

「さすがわ、三成殿の小姓殿ッ! いいタイミングです!!」
「真田様こそ! 直江様への突っ込み容赦がございませんね」
「お前たち、楽しそうだな」
『はいッ!』

兼続、撃沈。

「ゆ…幸村は兎も角…………なんで、通りすがりの同人オリキャラ(名無し)にまで…………」

地面に座り込んでのの字を描きながら、ブツブツと口中で文句を垂れる兼続。そんな、落ち込んだ兼続を尻目に、幸村と小姓は実に楽しげだ。

「わたくし、常々、幸村様の突っ込みの憧れておりました! あの時折見せる容赦のなさ! 尊敬致します!!」
「そんな……照れるようなコト云わないでください」
「殿の前では、懐っこい子犬のように振る舞い、その反面のあの腹黒さ!! 直江様のように暴走特級一辺倒より、とっても面白い御方です!!」
「は……腹黒い…まぁ、いいですけど……」
「どうすれば、そのような突っ込みを身につけることができるのですか?」
「あぁ、それはよい師匠(大谷吉継殿)と練習台(兼続殿)が近くにあれば、イヤでも身に付きますよ」
「成る程……環境が真田様の才能を開花させたのですねッ!」
「さ、才能って……」
「生憎と、わたしにはそのような師匠も練習台もおりませんから、真田様の領域に達するまでは、まだまだです」
「いえ、もう十分かと……。つか、すでに十分過ぎますから」
「と、云うわけで、今後ともこちらに遊びに来て下さいね、真田様。殿もお喜びになりますし」
「…………それって、わたし師匠認定ですか? なんで、メインキャラが同人オリキャラの都合で動かなきゃならないんでしょう?」
「ですから、殿もおふたりが来るのを喜んでおりますから〜」
「なんか、とってつけたような理由ですね」
「お望みなら、もっと突っ込んだシチェーションにご案内できるよう取り計らいますが?」
「はい?」

サラリと笑顔で何かを云ってのけた小姓殿。

「突っ込んだシチュエーションって……ホントに突っ込んでないでしょうね」

それに動じずサラリと返す幸村。

「あ、そっちの方がよろしいですか?」
「あああああああ、幸村―――――――――ッ!! 小姓――――――――――ッ!!! なんということをッ!!!」

嫉妬心と萌がない交ぜになった複雑怪奇な心境を大量の鼻血で表記する直江兼続。ドバドバと擬音が鳴り響く大量出血から見て、生命維持に必要な残存血液量3分の2を突破しているものと思われる。
しかしながら、烏賊の如く顔面蒼白になるでもない。至って健康そのものに見える。たぶん、元々の血の気が常人のそれを遙かに超えていたのであろう。
ならば、いくら白い陣羽織を真っ赤に染め抜こうとも元気満杯な理由も頷けるというもの。

「兼続殿。そろそろ、鼻血止めないと出血多量で死にますよ。って、ちっとも死にそうに見えませんね。もう少し抜いておきますか? というか、その前に、兼続殿の羽織が白から赤へと完全変色しますよ」
「いい加減になさらないと、ホントに烏賊の青い血でも輸血致しますよ?」
「うぅ……………幸村なら兎も角、同人オリキャラのくせに……」

兼続、再度撃沈―――――
幸村と小姓(同人オリキャラ)との見事なコンビネーションプレイに流石の義と愛の暴走特急・直江兼続も歯が立たない。
対島左近では冴え渡る思い込みと舌戦も、幸村とオリキャラ小姓の前では腕を振るう暇すら与えられなかった。

見事な口振りである。一介の小姓が、「ギーギー五月蠅い」と有名な直江兼続にまったく物怖じしないどころか口戦で勝つ。通常ではあり得ない。同人ならではのご都合である。

「思うんですが……」
「あなたのそのツッコミ話術。左近殿にお教えされたらいかがです? 兼続殿避けに……」
「えっ!? そんなことしたら面白くないじゃないですか!?」
「……はい?」
「図式的には、殿を巡って『直江様<真田様<島様<直江様』というのが、一番面白いのではないですか!? ですから、島様にはぜひとも直江様を弱点として頂かねばなりませんッ!」

目をキラキラさせて何か力説をする小姓。思う存分に自分の立場を利用し、最大限に主を取り巻く人々の喜劇を楽しむ気満々のようだ。


     左近殿。真の敵は兼続殿でなく、彼かもしれませんよ……


何か薄ら寒いものを感じつつ、視線が遠くなる幸村。

「イヤですよぉ、真田様。別段、殿と島様の間柄をどうこうしようなどとこれっぽちも……。ですから、島様の敵だなんて……」
「勝手に人の心。というか、地文を読まないで下さい」

「キャ♪」っとばかりに頬を染めて恥じらいポーズの小姓。小姓なだけに美少女めいた美貌に、その女子高生のような仕草がよく似合う。だがしかし、中身は某覆面大名と同じスメルがする。許されるならば今この場で殴り倒したいかもしれない。いや、今後のためにも……

「抹殺だなんて物騒なこと考えちゃ駄目ですよ、真田様♪ わたし、これでも殿のお気に入りなんですから☆」
「ですから、地文を読まないで下さいよ」
「ぬぅ、さすがは真田様です。この程度は動じないのですね」
「ここで下手に動じたら、貴方の思う壺でしょうが……。兼続殿のようになるのはごめんですよ」
「ゆ、幸村――――ッ!!」

そこで血涙を流す親友を指さす幸村。その無情な扱いをしているのは自分自身であることは、さっくり流し去っているようだ。腹黒キャラになるために、師匠から最初に伝授されて極意のひとつである。





やがて石田邸の門が見えてきた。
既にふたりの馬が門前でそれぞれの主を待つ。
そこまでふたりを送り、深々と頭を下げて見送る小姓。その秀麗な顔に張り付く、なにかを堪能したという笑顔。
その暖かい笑顔を背に兼続と幸村は石田邸を辞する。


「幸村。どうする?」

馬の背に揺られながらの帰路。重い溜息と共に吐き出される兼続の沈痛な言葉。

「どうするとは?」
「わかっておるのにわからぬ振りをするな。あの小姓殿のことだ! 主の親友を愚弄するとは不義ではないかッ!!」
「そう思われるなら、頑張って彼に義を説いて下さい。島殿に対峙される時のように相手の云うことを無視してひたすら『ギーギー』云ってりゃいいんです」

息を吹き返したかのように熱弁をふるう兼続に沈着な突っ込みをいれる幸村。

「ひ、ひどいぞ、幸村ッ! おぬしは不義を見て正そうという志はないのかッ!!?」
「何を云っておられるのです。不義を正すは義の化身たる兼続殿こそ相応しい。わたし如きは、兼続殿の義の足元にも及びませんよ」

そう幸村は爽やかな笑顔を兼続に返す。

「そ、そうか……なるほど。そうだな。幸村、見ていてくれッ! 次こそあの小姓殿に義のなんたるかをとくと説いて見せようッ!!」

そう既に沈み切った夕日に熱く誓う兼続。
その背を見ながら、「暫く退屈はしなさそうですね」とクスクスと朗らかな笑みを浮かべる幸村であった。





fin
2007/03/12